tsugaru’s blog

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管楽器の音色ってどうやって決まるんだろう

音のスペクトル

コンピュータで純音(純粋なサインカーブの音)を鳴らすと、明らかに機械音がなる。素朴でつまらない音である。

しかし、同じ音程だと思っている(この意味深な書き方については、記事を書く予定)楽器達は、豊かな響きを持つ。しかもそれは楽器の種類によって異なる。なぜだろうか、それは、聞こえている周波数以外の周波数成分を持っていることに由来する。

音は波であるから、一つの音は、様々な周波数を持つサイン波の足し合わせと考えて良い。わかりやすい例で言えば、バスクラリネットみたいな楽器で低い音を耳を済ませて聞くと、なんとなーく高い音が聞こえてくるであろう。

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そういう感じで一つの音に聞こえる音は、いろんな周波数の集まりと考えることができるのだ。このようにして、楽器の音を周波数成分ごとに取り出したものを音のスペクトルという。光のスペクトルは、光を周波数ごとに分けたもので、虹は代表的なアナログなスペクトルと言える。(下の画像は太陽光 - Wikipediaより)

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それの音バージョンと考えて欲しい。音のスペクトルを観察することで、 楽器の音色の秘密を探ることができる。

物理的にどのように音が聞こえるのか

音とは、空気の圧力の変化である。例えば、除夜の鐘を感じる時、除夜の鐘が打たれたことによって、鐘自体が振動し、その振動が空気の振動(圧力変化、粗密の変化)を引き起こす。その空気の粗密の変化を人の内耳の鼓膜が受け取り、耳小骨により増幅されて、蝸牛に伝わる。長さの異なる基底膜が、対応する周波数の音によって振動し、対応する神経組織を反応させることで、人は様々な音を知覚している。(下の画像及びこの説明は東京医科歯科大学教養部生物和田 勝様のページ)を参考、引用) f:id:pika-bika:20200920035618j:plain

共鳴

楽器の音が純音でない理由を考えるにあたって、共鳴の説明をする必要がある。 同じ音のなる音叉があった時、一方をたたいて鳴らすとなぜかもう一方も鳴り出す現象がおこる。これが共鳴である。一方を叩いた時、長さに応じて固有の振動をする。これは振り子を想像してもらうとわかりやすいかもしれない。長い振り子はゆっくりの周期で揺れて、短い振り子ははやく揺れる。こうして揺れた固有の振動が空気の振動となって、隣の音叉にも伝わる。隣の音叉がでたらめな長さだったら、揺れてくれない。よって共鳴は起こらない。しかし、もし同じ長さだったら、振動周期が同じであるので、同調して揺れ出す。こうして共鳴する。このような感じで、音というのは、一つのソースから音を鳴らしているつもりであっても知らぬうちに他の振動を生じさせることがある。耳に筒をあてがうとゴーという音を聞いた経験があるだろう。それは、筒の長さにフィットした音が筒によって連動して聞こえてきたからである。さて、以下では管楽器の共鳴について考えてみる。

円柱管の共鳴

上で見たのと同様、管にも、周波数と菅の長さ、形により、共鳴するか否か密接な関係がある。 ここでは、管の形は円柱に限定し、片側開口端か両側開口端かで周波数とどのような関係があるか見ていく。

この辺の説明は名前の通りわかりやすい、 気柱の振動 ■わかりやすい高校物理の部屋■ というページがあるので見て欲しい。まとめると、片側開口端では、基本振動の奇数倍、両側開口端では基本振動の整数倍の振動を固有振動として持つ。

片側開口端

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両側開口端 http://www.wakariyasui.sakura.ne.jp/p/wave/koyuu/kityuu-img/2222-25-1.gif

よって、基本振動の音を鳴らしても、実は微妙にそれらの固有振動が共鳴してなることがある。

管楽器の共鳴

上の例で触れた例に最も近い例から考えよう。 クラリネット、フルートは、円柱であり、クラリネットは片側開口端、フルートは両側開口端と似た性質を持っていると、形から予測できるだろう。実際その通りになる。 ほぼ同じ長さであるのに、フルートの方がクラリネットより一オクターブ高いのは、フルートは開口端であり、基本周波数がクラリネットに比べて大きいからであると説明できる。さらに、倍音成分について見てみると、クラリネットについては、偶数波長成分がフルートに比べて少なくなる。このようにして、クラリネットとフルートでは音色に違いができる。

さて、続いて、円柱でない場合の音色について考える。 金管楽器は構造上、閉管と見なされるべきであるのに、倍音をならすと両側開管のような列を持つ(ドに対して、片側開管なら3倍振動であるオクターブ上のソがなるはずだが、その前に2倍振動であるオクターブ上のドがなる)。この秘密はベル(ホーン)にある。円柱である時の共鳴振動数は上で述べたような性質を持っていたのだが、円柱でない時の共鳴振動数は、ベッセル関数という波動方程式の解析解で与えられる。この解析解は、当然円柱の時の片側閉管の結果も含むのであるが、実際の楽器における値を表すパラメタを代入すると、整数倍の全ての音が解に含まれることが示される。実はこのことはサックスやオーボエにもいうことができる。

以上のようにして、管楽器は概ね三つの種類に分けることができる。

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楽器の科学(以下のリンクの本)より

管楽器ふくめ、これらの音色の違いについては 東京大学物質基礎科学コースのスライド を見て欲しい。さらに詳しいことについては楽器の科学 図解でわかる楽器の仕組みと音の出し方という本が、物理に明るくない人に対しても比較的優しく書かれていると思われる。

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物理に詳しい人にとっては、N.H.Fletcher,T.D.Rossingの楽器の物理学が定番なようである。私は物理学専門でないので難解かもしれないが、是非とも読んでみたいところである。

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より細かな違い

実際には、こんな整数倍みたいなきれいな感じではなく、楽器や人に応じて様々な中途半端な周波数の音が重なり合い、独自の音色を形成している。さらに、それらの構成成分は、楽器の穴を塞いだり長さを伸ばしたりすると、倍音成分が変わるので、音色は楽器の音程によっても変わってくるところが面白い。さらに、周波数によって、人間への聞こえ方は変わってくる。この辺の聞こえ方については、次回、楽器の音程はどうやってきまるの?みたいな記事をかこうとおもうのでそこで言及する。また、人間による演奏において、楽器の音程は一定ではなく、(ビブラートよりも)微妙な揺らぎが生じている。この揺らぎが音色の人間らしさというかまろやかさというか、を感じさせる要素になったりもする。そんな感じで、電子的に本物のような音色を再現するのはなかなか大変なものであるなぁと、思うのであった。

引用のない画像はイラストや